ささやかな悶着もあった白鳥家の別荘で、高木と平次は相部屋になった。 一件不思議な組み合わせだが、それもそのはず。 余った者同士だからだ。 お互い人見知りはしないし、一定の基準以上の社交性は持ち合わせているのでほとんど支障は無かったが。 夕飯も終わり、その後の談笑も済み、用意された部屋に行くと二人は荷物の整理を始める。 男二人なのでそこまで量はない。 すぐに平次はベッドの縁に腰掛けて、何やら手帳を見ている。 一方の高木も必要最低限の整理を終えると、暇そうに手帳を弄ばせているようにも見える少年を視線に捉え、 思いついたようにバッグの中からある物を取り出す。 「食べるかい?」 差し出されたスナック菓子に彼は首を振る。 「おおきに、でも遠慮しとくわ。それに、夜にそんな油っこいもん食べたら太るで?」 悪戯っぽくそう言われてしまえば苦笑するしかない。 高木は袋をボストンバッグに収めた。 その後姿を、いつの間にかベッドから立ち上がって近づいてきた平次がひょっこりのぞく。 彼のバッグのほかにはチョコレート菓子も入っていた。 「高木さんって結構こういうの食べるんやな。あの千葉っちゅう人ほどじゃなくても、ほんま太るで」 「あはは。でも四六時中動く仕事してると、知らず知らず何かを食べてるんだよねえ」 「あー、疲れた頭が糖分を欲してるんやわ」 「だろうね」 「刑事さんは大変やなあ」 労わる様にそう言うと、彼は息を吐いてベッドに戻る。 ごろんと大の字になって腕を伸ばした。 「でも、高木さんは似合てるわ。刑事が」 「え、そうかい?」 いつも刑事らしくないと言われることが多いので、少しだけ目を丸くする。 そしてバッグから離れて彼もベッドの縁に腰掛ける。 すると彼に目線を合わせるように平次も起き上がった。 胡坐をかき、右に首を向けにっと笑う。 「刑事っちゅーか、警察っちゅう組織に似合う」 ますますワケがわからない、といった感じで高木は首をかしげる。 「……ごめん、よくわからないんだけど」 「ええてええて。これは単なる俺の思いつきやから。ただ、もしかしたら、あんたはこの別荘にもいる他の刑事達よりも 刑事にふさわしいかもなってことや」 「それは買いかぶりすぎだよ、服部君」 「買い被ってなんかおらんで。――あんたはその困ったような笑顔で、ここにも現場にもおるんやから」 そこで彼は虚を突かれた様に押し黙った。 自分でも気付かなかったことを言及された。そんな感じだ。 「刑事は手品師のようにポーカーフェイスを保てば良いっちゅうもんやない。いつもの自然な態度をいかなる時にも 崩さんかったらええんや。それが怒った態度でも良いし、無表情でも良い。勿論、あんたみたいなそんな態度でも」 高木は黙ったままだ。平次は気にせず言葉を続ける。 「それに警察は犯人捕まえて終わりっちゅう仕事とちゃうしな。むしろ、それ以降の取調べや証拠確認のほうが 大変かもしれん。本当の意味で事件が解決するまでを考えるなら、どこまでも態度を崩さない人間は刑事として理想的や」 そうは思わんか?と彼は問いかけた。 挑戦的な目だ。早熟した才能を持て余さず、完璧にコントロールする少年は一回りも違う大人にどんな答えを望むのか。 いや、単なる気まぐれか暇つぶしかもしれない。 彼やもう一人の高校生探偵くらいにしか出来なさそうな、高度な暇つぶしだったが。 対する高木は、案外早く答えを出した。 「確かに、一つの目的を達成させることを考えるなら理想的だと思うよ。……でも、その目的までに 避けることの出来ない人間との接触を考えるなら、そんな刑事はふさわしくないと思うな」 彼は笑った。先ほど言及された、やはり困ったような笑顔を平次に見せて。 そんな答えに、少年は肩をすくめて再び横になる。 「そーいう答えは、あんまおもろないわ」 「そりゃ公務員だしね」 つまらなさそうに手足を伸ばす少年を見て、高木は急に煙草が吸いたくなった。