「ねえ、あの床の端っこにある血痕はいつ付いたものなの?」 「あれは確か遺体を動かす時についたものだと思うよ」 「ふーん……」 目の前の小さな少年はそのまま腕を組んで黙り込む。 例によって例の如く民家で遺体を発見した少年は 当然のように居座ってしまっている。 それを咎めるものは居候先の主だけだろう。 その主も今はいないので少年は現場を自由に動き回る。 小さな体で一生懸命に推理する姿を見るとついつい自分も 手伝ってしまいたくなるのだ。 考え込む後ろ姿にもう一人の青年をだぶらせて。 人知れず苦笑して、見つけた血痕の元へ歩み寄る彼についていく。 自分がついていくことに彼はあまり気にしないようだ。 それ位には信頼されていると思っていいのだろうか。 一体どんな理屈で「そんな姿」になったのかは皆目見当がつかないが、 それを知ろうとも思わない。 自分には知る義務も無いだろう。 己に課された仕事をこなさない限り、情から生まれる行動は なるべく避けなければならない。 よく人から情が厚いと言われるがそれと公を混同することは しないように努めている。 そういった気質が「上」の目に留まったのかもしれない。 この少年の力になりたいと思う一方で、このまま自由に動いてもらって 周りにいるビュロウをもう少し把握しておきたいと思う気持ちがある。 後ろめたさは無い。 悪いことではないのだから。 むしろ誇りに感じている。 ――だけど、 ”ソシキニカンスルジョウホウハカナラズワレワレニツタエヨ” 「あ、高木刑事。僕ちょっと気付いたことがあるんだけど……」 「ん?何がわかったんだい?」 その任務に付いた自分は、何かに謝らなければならないような気がする。