夕暮れは夜にしか繋がらない
平次が修学旅行のお土産を毛利親子と居候の少年に渡してから 数週間後の2月11日。 今度は蘭が大阪にやって来た。 父やコナンはいない。 練習試合で大阪の強豪校と対戦しに来たのだ。 主将の蘭は部員を率いて堂々とした戦いぶりを見せる。 偶然その学校が改方の近くだったので、平次も 少し寄ったのだがハイレベルな試合に舌を巻く。 ちなみに和葉は合気道部の練習で来れなかった。 一通り対戦が終わると、いつの間にか出来ていたギャラリーの片隅にいる 彼に気付いた彼女が笑顔を見せる。 平次もそれにあわせて手を軽く上げた。 普通の挨拶程度のことなのだが、周りにいた部員は黄色い悲鳴をあげ 主将にわっと駆け寄る。 「えー!主将、誰なんですかあの人!?」 「もしかして新しい彼氏とか!?」 「工藤君とはまた違ったイケメンじゃない!」 同輩も後輩も興奮しつつ質問攻めにしてくる。 完全な勘違いに蘭は慌てて訂正した。 「違うわよ!彼はただの友人よ。新一の親友だから知ってるの」 「ええー?」 「ほら、試合は終わったんだから早く片付けの用意をしましょう!」 それでも尚部員は疑惑の目で見つめてくる。 苦笑しながらそれを宥めすかして、早く着替えを済ませるよう指示を出す。 そのまま顧問の教師のへ行き今回の試合についての評価を聞こうとした。 真面目に主将を務める彼女に笑いながら、教師は 「友人が来ているなら会って挨拶してきなさい」と言う。 彼女は若干躊躇ったが、「礼儀も空手道の必須だよ」とにっこり笑う教師の 心遣いをありがたく頂戴し平次の元へと駆け寄った。 「来てくれたんだ。和葉ちゃんから時間が間に合えば行くかもって聞いていたけど」 「その和葉が部活で来れなさそうやし、俺が来たんや。 今日の姉ちゃんの勇姿をちゃあんとあいつに報告しといたるわ」 まだ残っているギャラリーは興味津々の目で彼らを見つめてくるが、 平次はあまり気にしていないようだ。 対面した彼女にいつもの笑顔を見せる。 「でもわざわざ試合後に来てもろてすまんな。なんか気ぃ使わせたみたいで」 「ああ、気にしないで!先生が友人なら会って来なさいって言ってくれたから」 「さよか。なんや姉ちゃんの後輩達がえらい騒いでるから ちょっと悪いことしたなて思ってたんや」 「それは大丈夫よ。ただのとりとめもない話題だったし」 その後一言、二言、言葉を交わして蘭は片付けに戻ることにする。 明日帰るので今日はこのまま民宿に一泊の予定になっていた。 「あ、そうだ!服部君この後時間あるかしら?」 戻ろうとした足を止め、彼女は思い出したように振り返る。 「?今日はもう何も無いで。後は帰るだけや」 「じゃあちょっと待っててくれないかしら。渡したいものがあるから」 「え、何や渡したいものって?」 「前のお土産のお返しよ」 そう言ってにっこり笑うと彼女は再び皆の輪の中に入っていった。 残された平次は蘭目当てで来ていたギャラリーに詰め寄られ、 蘭もまた先ほどの2人の会話を見ていた部員達に冷やかさせる。 苦笑して2人は同じ答えをした。 「あの姉ちゃんは俺の親友の彼女やって!」 「彼は私の親友の彼氏よ!」 彼らの答えは彼ら自身の本心だったのか、思い込みだったのか。