君という光 ― 前略

服部平次様



冠省 

突然お手紙を差し上げる無礼をお許し下さい。

同封したもう一枚の注意文を読まれた上でこちらの紙を読んで下さっているということは、私のような殺人者と少しでもつながりを持つのを許してくれたものだと解釈させて頂きます。

あらかじめ申しておきますと、この手紙を送ったのはあなただけです。
英国帰りの探偵さんや、もちろんあなたの相棒の小さな探偵さんにも送っていません。


あなたに頼みたいことがあり、筆を取りました。


1ヵ月後私の親友の3回忌があります。
ご察しの通り2年前死に追い込まれたあの彼女です。
できれば、私の代わりに彼女の墓前に花を添えてはくださいませんか。

理不尽な願いだとは承知しています。
しかしあなたにしか頼める人がいなかった。


私は1年前に勘当同然で家を出て、その時地元の友人とも縁を切りました。

そしてあの日事件を起こしたのです。


あの島であの人たちと死ぬ気でいたので、再び彼女の命日がやってくるとは夢にも思いませんでした。

しかし私は生きた。

あなた達のおかげで。

そのことに関してあなた達を恨んでるとかそういうことは全くありません。
逆に、死ぬ気でいたのに生きながらえたことを何故か安堵する自分がいました。

彼を殺したというのになんて勝手だろうと自分でも思います。

あなたはどう思うのでしょうか。

同じ探偵が人を殺すということを。

やはり失望したでしょうか。

それともまた別の何かを感じられたのかもしれませんね。



私はあなたに会えて嬉しかったです。
殺人者に嬉しいなんて言われてもあなたは全然嬉しくないでしょう。
それは当然です。

でも私はあなたにお礼を言いたい。
あなたのような、人の命をいとおしむ探偵がいたことに。


だからあなたに花を添えてほしいと思いました。
生きている限り、私が添えないわけにはいかないのです。
私が生きたあの地に、今後足を運ばれる機会がございましたら、そのときに出来ればお願いしたいと思う次第でございます。


あなたの立場上献花してくださることのほうが難しいとはわかっています。
少しでも躊躇されるのでしたらこの手紙のことは忘れて下さって構いません。



このような無茶なお願いをしてごめんなさい。
迷惑をかけてごめんなさい。



探偵だったのに、人を殺してしまってごめんなさい。











依頼文だったのに、謝ってばかりですね。
それでもあなたにお願いしたかった。



もうすぐ初公判が行われます。
ありのままの真実を述べ罪を償っていくつもりです。


突然のお手紙、本当に失礼いたしました。
御健闘をお祈りいたします。
それでは。



                                                      早々
                                                      越水七槻







追記

お願いを聞いてくださるか否か関係なく、この手紙は捨ててください。


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