君という光 ― 後略

越水七槻様


拝復


残暑の候、空の青さに幾分秋の気配が感じられます。
いかがお過ごしでしょうか。

貴女が依頼された献花の件ですが、先日幼馴染とともに福岡に行ってまいりました。


屋敷周辺にはラベンダーの花が咲いていました。
あなたの親友の墓にもたくさんありましたよ。
ラベンダーとは別に彼女の墓で百合を見つけました。
貴女があの日の前に献花したものでしょうか?


貴女の手紙を読んで少しほっとしています。
事件が終わった後の貴女は、もう生きることに執着していないように見えたのです。
しかし手紙には生き永らえたことに安堵していると書いてありました。
それに対して恥かしく思うと考えていらっしゃるようですが、安堵して構わないと思います。

死にたいと思いよりかははるかに。


自覚していないかもしれませんが、恐らく貴女は事件を起こした後も生きたかったのではないでしょうか?
無人島で閉じ込めるにしては、貴女の策は穴がありすぎた。
自分や白馬氏は警察の人間を親に持つ子供です。
自分達が不自然に消えたら捜索が早急に行われたことでしょう。
トリックの欠陥は能力の問題ではありません。
本気を出せばもっと完璧な密室ができたはずです。


あの事件の真相がわかった時残念だと思いました。
貴女が殺人を犯したことを、とても虚しく感じました。


それが何故だかはっきりとはわかりません。
自分と同じ高校生探偵だったから、というのとは違う。
ただ貴女は惜しい人だった。





実は昔、自分も人を殺したことがあります。
直接ではないにしろ、あれは事実上自分が殺してしまったことだと思っています。

犯人を捕まえることが出来ず、大切な人を殺害させてしまった。


あれからもう一年が過ぎようとしています。
このことについて知るのは、家族以外で貴女が二人目です。
一人目は幼馴染でした。


同封したラベンダーの栞はその幼馴染が作ったものです。
そして花は彼女の墓の一番側に咲いていたものです。

少し調べさせてもらいましたが、彼女もラベンダーが好きだったそうですね。
天涯孤独だった彼女にとって貴女の側にいることが一番の救いだと思い、同封させてもらいました。

墓の世話は近隣にある教会に頼みました。
「故人の親友がいつの日か必ず来るからそれまでお願いしたい」、と。


だから必ず彼女に会いに来てください。
生きて、生きて、いつか必ず。


貴女には彼を殺した罪を償う義務があります。
そして同時に親友の分まで生きる権利があります。



自分は墓の前で一つの約束をしました。


「貴女や貴女の親友のような人を、もう二度と決して出さない」



殺人でしか真実を明るみにすることができないようなことがこれから先起こらぬよう、真実を追い求め続けます。



貴女が言った「死を確信するまで生を信じぬくこと」を決して忘れず追い求めます。



これは驕りかもしれませんが、きっと幼馴染が見届けてくれると思っています。






公判では白馬氏が証人として立つことが決まりました。
この手紙が届く頃にはもう知らされていると思うので、ここに書いても大丈夫でしょう。
彼もあの事件で思うところがあったようです。

それは自分も同じことでした。




それでは、ご自愛のほどお祈りいたします。
乱筆乱文お許し下さい。




                                      敬具
                                      服部平次











P.S

俺も、生を信じぬくあんたに会えて嬉しかった。


戻る

-Powered by HTML DWARF-