君の色
「ねえ、高木君って最初から捜査一課志望だったの?」 警視庁内の自販機で偶然会った由美から何気なく飛び出した質問に 高木は少しだけ目を丸くしそうになる。 そしてその質問の意図を想像して次に苦笑した。 「やっぱ刑事っぽく見えませんかね」 「ううん。そういう後ろ向きな考えじゃなくって、捜査二課とか刑事部以外でも生活安全部とか、 それこそウチのような交通にいても違和感無さそうじゃない」 「ああなるほど」 由美は、高木が強行犯担当の捜査一課以外でも似合いそうな部署があるのではないかと言っているのだ。 手元に持った紙コップのコーヒーから湯気が立っているのを気にしないまま飲まずに、由美はベンチに高木は立ったまま会話を続ける。 「でも、捜査一課は警察官なら大方の人が憧れません?」 「まあ、そりゃそうだけど」 「何だか納得して無さそうな顔ですね」 「んー頭では理解してるんだけどねえ。……あ、ずっと捜査一課にいるっていう感じがしないからかも!」 一課の室内で見かける強面のベテラン刑事や親友の若手刑事から発せられる「生涯刑事務めます」みたいなオーラが無いのだ。 その言葉に、今度こそ高木は目を丸くして笑った。 「何ですそれ」 「自分でもわからないわよー。ただ、何となくそう思っただけ」 笑われたことに拗ねて、彼女は紙コップのコーヒーを冷ますべく数回息を吹きかける。 そして飲もうとしたが、ふと、横に立つ彼を見上げた。 「ま、私のおふざけは置いといて。せっかく”本店”に来れたんだし勿論あんたはがんばるんでしょ?刑事課で美和子たちと一緒にさ」 「そりゃあがんばりますよ」 「……だよねー」 自分の思い付きを払拭するかのように相槌を打って、「さっきの変な質問は忘れて頂戴」と付け加えてからようやく そこで彼女はコーヒーに口をつけた。 これから予定があるためそのまま飲むことに専念する。 一方の彼も同じく飲んだが、すぐに紙コップを口元から下ろした。 何かを考えているのか、じっとある一点を見つめる。 目線の先には波線を描く苦い褐色。 ゆらゆら波打つ小さな沼。 「――きっと、楽しいでしょうね」 「え、何か言った?」 頭上から一瞬聞こえたような気がして由美が顔を上げる。 そんな彼女に対してかぶりを振って否定した。 「いや、何でもないですよ。それよりも早く行かないと駄目なんじゃないですか」 「言われなくても急ぎたいわよっ。あー、なんでホットなんか買っちゃたんだろ。一気飲みできないじゃない」 「そういえば佐藤さんに劣らないほど猫舌ですよね、由美さんって」 そこまで熱さには弱くない高木は「やけどしない程度に頑張ってください」と言う。 いつもの、どこか困ったような笑顔を浮かべながら。 その笑顔を張り付かせたまま彼女から視線を外して、向こうにある一課のネームプレートを見た。 笑顔に反比例する色を含んだ目で。 ――きっと楽しいでしょうね。ずっとここに居られたら