ああ雑草

「……で?どういうつもりやねんこれは」


目の前のダンボールを眺めながら携帯に向かって問う。
直接相対しているわけでもないが自然と目つきが悪くなるのは仕方が無い。


「つもりも何も、お中元だって。俺の真心たっぷりこめた」


電話越しの彼は軽い口調でさらりと「真心」と言う。
彼と知り合って早1年。
自分から彼にはあるが、彼から心のこもったものを受け取った覚えはない。
悲しいがない。



「ほぉーう、これが工藤の俺への真心なんか?あん?」


ここは絶対に折れはしない。


「ああそうだ。箱いっぱいにあるだろう?」


白々しいセリフをいけしゃあしゃあと吐く。


「ふーん、こんなにたくさん贈ってくれはっておおきになあ」


嫌味が文化な京都弁をわざと織り交ぜねちっこく言い返す。
初めて彼から贈り物が届き、わくわくしながら箱を開けた時の
あの脱力感をかつて味わったことがあるだろうか?
いや、ない。


「礼なんかいらないぜ。コナンの時お前には世話になったから、ほんのお礼さ」




――ぶちっ



「アホぬかせやこのボケナスがああああ!!!
この世界のどこにシソの葉箱詰めにして礼とか言ってのける奴が
おるっちゅーーねん!!!」


大きな音ともに机を叩く。
そう、ダンボールにはありえないほどのシソの葉が入っていた。
それはもう、もっさりと。

どっさりではない。もっさりだ。



「仕方ないだろ?うちの庭放っておいたらいつの間にかシソが
大量繁殖してたんだし」
「それはお前の責任やろーが!お前が責任持ってミキサーかけて
一気飲みせえ!!」


それはそれでえげつないものができそうだ。


聞くところによると、どうやら夏休みの間ずっと読書に明け暮れていたため
庭が素晴らしく生い茂った森になったことに気付かなかったらしい。
ちなみに、いつもならこういうことになる前になんとかしてくれる彼の幼馴染は
現在国体で兵庫に遠征中だ。
遠征前も学校で合宿だったため新一の家には行かなかったようである。


「お前は蘭ちゃんいーひんかったら何も出来んのかあ!?俺に送りつける前に
自分でどうにかせい!」


思い切り怒鳴りつけると、それまで白々しいセリフを散々吐いた彼が開き直った。


「そりゃ俺だって一生懸命他の人にも配ったんだぜ!あの「工藤新一」がご近所に
シソを配り歩いたんだぜ!?だからお前も少しは協力しろよ!」


あのエセさわやかスマイルでシソを配り歩いたのか。
中々シュールな場面が想像できる。


「ああもううっさいなあ!!しゃーないからこの箱はどうにかしたるわ!
配り歩いたんなら、もう後はこの箱だけなんやろ!?」


食べ物を粗末にはできない。
幼い頃からのしつけをここまで恨んだことは無いだろう。
頭が痛くなるのを感じながら、自分が府警で配り回ったらなんとか
なるだろうと計算する。
いっそ大滝警部あたりなら箱ごともらってくれるかもしれない。(←酷ぇ)

しかしその計算は次の新一の言葉でもろくも崩れ去る。


「……あと2箱くらい」



こんな箱詰めがあと2箱もあるのか。
少し気が遠くなりそうだった。


「…………………今度の日曜そっち行ったるわ。それで一緒にシソの今後を
考えようや」


恐らく今新一の家の庭はとんでもないことになっているだろう。
いっそのこと業者を呼んで掃除したらいいのに、「他人が敷居を跨ぐのは嫌だ」
という我がまま、いや駄々こねでそれも出来ない。
この一見なんでもできる完璧男は放っておくと、いつも予想しないことを起こす。
しかし何度起こしても大目に見てしまうその幼馴染と自分が甘すぎるのにも
一因はあるのだが。


「ああ。悪いな服部……それでもう一個言うことがあるんだけど」
「なんや?」




「なんかシイタケも生えてきた」





次の日曜、上京した服部と帰京した蘭が新一を散々叱り
三人で庭を掃除する羽目になるのであった。


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