ああ雑草エクストラ ブラックインパクト
久しぶりに相方の部屋を訪ねてみたら、床半分に敷き詰められた「それ」が 目に飛び込んできた。 「ちょっとコルン!一体何なのさこれは!?」 「……この前通りすがりの男に貰った」  室内なのに青々しく賑わう1mほどの草がふぁっさりと生えている。 どっさりでももっさりでもない。 ふぁっさりだ。 頭が痛くなるのを感じながらキャンティはもう一回叫んだ。 「どこの道の通りすがりが麻薬をあげるっつーのさああああああ!!!!」 ああ雑草 今度はついに 麻薬です (キャンティ心の川柳) そう。 コルンの部屋には麻薬の原料にもなるケシが大量に生えていた。 通りすがりの人に「あら、お花きれいですね」「それなら一本差し上げましょう」とか 会話を交わしてもらえるような軽い草ではない。 高額のお金で取引される所謂「悪の華」だ。 「……これを育てて他の人にもあげるなら、タダであげるって言われた」 「んなもん育てんな!」  よくよく聞いてみると、とある裏社会の人間が集まる裏町で歩いていたら 上記のような条件でケシの種子を貰ったらしい。 タダであげて、貰った相手が広めてくれれば、常習性のあるそれを再び求めて 自分の下へ来て今度は法外な価格で売りつける算段だったのだろう。 よくある犯罪である。  そんなこんなで2人がぎゃいぎゃいと(主にキャンティが)騒いでいると、 その声を聞きつけてジンとウォッカも部屋にやって来た。 案外アットホームな組織だ。 眉間にしわを寄せてジンが問いただす。 「何の騒ぎだ、キャンティ」 「どうもこうもないよ!このバカがケシを見知らぬ男から貰ってきて 部屋で育ててたんだよ!!」 「いや、俺らの組織って一応ワルなんだし、お前等もスナイパーなんだから そこは別に……」 「甘いね!」 ウォッカの相変わらず弱いツッコミにバン、と壁を叩くキャンティ。 「スナイパーは健康が一番なんだよ! 麻薬に頼るような腕のスナイパーはプロじゃないのさ! 早寝早起き1日3食10キロの早朝マラソン!! ついでに夜食はラーメン禁止!! これを毎日繰返すのが本物のスナイパーっつーもんだよ!!!」  何だかえらくヘルシーな暗殺者である。 その健全なポリシーを貫く悪の構成員の熱弁にウォッカは 「お、お疲れっす……」と返すしかなかった。 元凶のコルンは「使うつもりは無いのに…育てるだけなのに…」と ぼそぼそ訴えるがあまりにも小さい声なので気付かない。 ふう、とジンがため息を一つつく。 「APTXを作っている我々がとやかく言うことじゃねえが、 キャンティの意見も否定はできねえ。コルン、それは捨てろ」 「……えー…」 「えー、じゃない!」  お父さんのような言い聞かせ方をする黒の組織幹部ジン。 駄々をこねるコルンを目にして父性が顔を覗かせたらしい。 「せっかくここまで育てたのにもったいない」といじいじしょげ返る駄々っ子と 「お前が使わなくても育ったケシを他の奴が使えばややこしくなる」と叱るお父さん。 そんな彼らを背にして、今度は一際甲高い声が後ろから投げかけられた。 「Hey,コルン!それなら私がもらってあげてもいいわよ!」  突如現れたのは上階の自室でビリーズブートキャンプ実践中だったはずのベルモット。 またややこしいのが来た…、とジンが思ったのは内緒である。 そんなことは露知らず、彼女は壁にもたれかけ無意味に髪を掻き揚げ 無駄に妖艶な笑みを部屋の4人へと向けた。 「私がもらうならもったいなくはないでしょ? ちゃんと責任もって最後まで育ててあげるわよ」 「育ててどうすんのさ」 「それはやっぱあれじゃないか?老化からくる腰痛とか手足の痺れとかに……」 「お黙りグラサン!!」  図星だったらしい。 ケシの花からできるモルヒネは医薬品として強い疼痛を緩和する効用があるのだ。 アポトキシンで外見は若返ったが中身は悲しいかな、若干お年を召したおばさんの ままのようだ。 「ベルモットにあげるのは嫌……」 「あの女にあげるのはアタイも気に食わないね。 かと言ってあんたも持ってたらダメだよ!」 「いや、ここはやはり年長を敬ってベルモットの意見を尊重したほうが」 「年長は余計よ!!」  四者四様の意見がわらわらわらわら…… ぶちっと縄が切れるような音がしたのはそんな時。 「……どうやら、俺直々に手を下すほか無いようだな」 切れる音を出したジンがいつの間にか手に持ってたのは―― 「ちょ、兄貴待ってください!! 火炎放射器はまずいっすよここ地下っすよ逃げられないっすよ!!」 「てかアンタだって逃げられないよ!」 「……皆で、無理心中」 「ちょっとコルン、変な台詞言わないでよ!ジンもそれ置きなさい!!」 「うるせええ!!黒の組織が草捨てる云々で必死になるなど 情けないにも程があるわああああああああ!!!!」  その後本当に火炎放射器が火を噴いたかどうかはわからないが、 それ以降コルンが知らない人から物を貰う時はジンにお伺いを立てるようになったのは 事実である。