ロンド
思わず懐の拳銃を取り出した。 ニューナンブM60。 38口径の小型だが、この距離だと目の前の「彼」に寸分違うことなく 打ち込むことができるだろう。 彼女の腕前なら、もっと遠くからでも撃てただろうが。 2m前後の近さで銃口を顔面に向けられた彼は 少し驚いた顔をした。 でもそんな表情も一瞬だけ。 すぐにいつも仕事に使うような真面目な顔つきに戻った。 そのいつもの顔が、いつもの顔に見えない。 「佐藤さん、」 拳銃を挟んだ向こうの彼女に彼は呼びかける。 慣れ親しんだ、彼の声。 それすらも、今は。 「どうして……」 彼女の声は震える。 どうして恋人であるはずの自分に銃口を突きつけられても、 彼は普通の顔でいられるのか。 予想してた? 覚悟してた? それとも、貴方の中の私なんて「ただそれだけの」存在だった? 「……こんなこと、貴女には言いたくなかったんですけど」 躊躇うことなく前へと進み、高木は佐藤のかざした拳銃を右手でやんわりと 下へそらした。 「Need not to know」 終わり無き輪舞の中に彼も自分もいるのだと。 このとき佐藤は知った。