重機を使ったサルベージの音が響く。 峠の崖と言うこともあり、住民など全くいない。 おかげでかなり大きな音を思う存分機動隊は出していた。 ひしゃげたガードレールからそれを見下ろしながら、彼は手に持つ資料をぱらりとめくる。 綿密すぎるデータを集めたそれは、もしかしたら単なる思い過ごしかもしれない。 だが、このままこの事件を迷宮させるわけにはいかない気がするのだ。 「見つかりましたよ、遺留品と思われる服の一部が。恐らく爆破のときに吹き飛んだのでしょう」 「そうですか、ありがとうございます」 崖にくだり遺留品を探していた隊員から、無線で連絡を受けた若い署員が彼に知らせる。 その後、上がってきた隊員に礼を述べて、その遺留品と思われる焦げたフリースを手に取る。 手の平ほどしかない、真っ黒な焼けカスかもしれないが、確かにあの遺体が被っていた帽子に酷似している。 じっと見つめていると、署員が問いかけてきた。 「本庁はこの事件を暫く置いておこうとしているようですが、あなたはまだ気になることがあるんですか?」 「うーん、そうだなあ……」 聞かれた彼は少し空を仰ぐ。 今日は晴天だ。 が、次に自分よりも年下の署員のまっすぐな目を見て、思いついたように手に持っていた一枚の紙を目の前にちらつかせた。 「これは?」 「今回の爆破に使われたプラスチック爆弾の詳細だよ」 「はあ……」 その紙だけ見ても、そういう系統には疎い署員にはぴんとこない。 そんな署員のためにか、彼は付け足す。 「この爆弾はね、この事件の数日前に起こった同じく車の爆破事件に使用されたものと全く一緒だったんだ」 「えっ」 数日前に起こった事件では、被害者もおらず、ただ車が焼けただけだったが。 目撃者の証言に寄れば、黒い車が数台走り去ったという。 そのときの爆弾と、今回の爆弾は同じだった。 そこが気になって仕方ない。 そして。 「あの遺体が着ていた服、どこかで見たことあるような気がするんだよ」 「つまり、被害者に会ったことがあるってことですか?」 「かもしれないね。まあ僕の勘違いかもしれないけれど」 しかし、「気がする」以上、この事件を放置できなかった。 見ないふりをしていたほうが、いいような予感はしたが。 それでも、それ以上に放置することのほうがいけない気がした。 「とりあえず、僕が今まであたった爆弾事件の関係者の指紋でも調べようかなとは思ってるんだ」 「それは大変そうですね」 「そうでもないよ。そこまで爆弾事件が何度も起こってるわけじゃないし」 彼は資料のファイルをたたんでため息をつく。 「まずは、あのバスジャック事件から手をつけようかな」 危険を知らせるサイレンが、頭の奥で鳴る音が高木には感覚的にわかった。